最先端の物理学
カオス理論とバタフライ効果
ローレンツ系の初期条件への鋭敏さを調べます。二つの軌道の初期距離 δ とパラメータ ρ を変え、軌道の指数的離散を観察し、 からリャプノフ指数 を推定します。
器具
- 位相空間の軌道の3Dモデル(図1)
- 初期距離δ・パラメータρのスライダー
- 図2の時間ごとの分離グラフ
手順
近い二軌道
ρ = 28(古典的なカオス領域)と小さな δ(約0.1)に設定します。二軌道はしばらく重なった後、突然アトラクタの別の「翼」へ分かれます。初期条件への鋭敏さの兆候です。
δに対する分離速度を測る
δ を数値(小・中・大)に変え、図2で二軌道がはっきり別れる時刻を記録します。δ を小さくしても分離の時刻が遅れるだけです。距離は と指数的に増え、λ は不変で「閾値時間」だけずれます。
ρ をカオス境界を越えて変える
ρ を20–24へ下げると、軌道はカオスではなく安定な平衡点へ落ち着くことがあります(安定限界は ρ ≈ 24.74 付近)。閾値の両側でアトラクタの形を比べます。パラメータが臨界値を越えるときの分岐はカオス理論の中核概念です。
リャプノフ指数を推定する
δ = 0.1 で、図2の対数線形増成領域から二時刻 (t₁, t₂) と距離 (d₁, d₂) を読み、 を計算します。λ > 0 はカオスの確認です。δ = 1 で測る λ も同じはずと予測し確かめます。
シミュレーション
実験の歴史
1963年、気象学者エドワード・ローレンツはRoyal McBee計算機で三変数に簡約した対流モデルを動かし、0.506127の代わりに0.506を入力し直すだけで結果が全く変わることを発見しました。彼はこれを「バタフライ効果」と呼びました。初期誤差が指数的に増えるため長期予報が成り立たない決定論的系です。
ローレンツの論文(J. Atmos. Sci., 1963)は10年近く顧みられず、ルエル=ターケンス(1971年)がカオスを乱流に結び付け、ファイゲンバウム(1978年)が周期倍化経路の普遍定数 δ ≈ 4.669 を発見してから広まりました。カオス理論は気象・生物・経済へ急速に浸透し、ポアンカレが1887年に三体問題で示した「決定論的でも実際には計算不能」という教訓を復活させました。